あの日にかえりたい(2)


結局、私とS君は一緒にボートに乗ることができなかった。

一緒に乗っていれば、自然の中の開放感と、狭い空間で窮屈な思いと、水の上という不安定さが

合わさって微妙な幸福感に包まれていたかもしれなかったのに・・・・である。

さて私と同じ番号を引いた、ある意味幸運な男子は・・・・

やはりトランプ仲間で、ユーミンのLP「コバルトアワー」を貸してくれたこともあるH君だった。

長髪で色白、いまどきの俳優なら藤原竜也似の女子のアイドル的存在であった。

そのくせ女子が話しかけると、いつもポッと頬が赤くなる大変な恥ずかしがりやでもあった。

カッコいいH君と乗るのはいいけど、なんとなく冷ややかな嫉妬のような視線を感じていた。

(これは たまたま くじでこういう結果になったわけで、私が喜んでいるわけではないからね)

と心の中で言い訳をつぶやいて、H君との楽しいひと時を過ごした。

話してみると、意外とさっぱりして親しみやすい子だった。

一方かわいそうなのはS君である。男子の人数が多かった為に男同志で乗ることとなった。

まぁ私にとっては、これはこれでよい結果だったといえよう。

ボートのあとはちょうどお昼となり、それぞれ適当に散らばって昼食をとった。なぜかそこからの記憶があまりない。

S君が食べてくれたかどうか心配だったことは確かなのだが、まあまあの出来だと少しは自信があった。

芝生でゲームをやっている証拠写真も残っているのだが、何の遊びだったかも記憶がない。

私の頭の中は、H君とボートに乗った出来事だけでもうすでに飽和状態だったのだろうか。

やがて「サヨナラ遠足」は自然解散となり、できれば一緒に帰ろうとS君を探したのだが、先に帰ってしまっていた。

結局、一言もS君と話すことができなかった一日となった。

帰宅したら急に悲しくなって泣きそうになってきた。

でも、家でしくしく泣いているところを親にでも見られたらたまらないと必死でこらえてもいた。

その時電話がなった。

「ありがとう。とってもお弁当おいしかったよ」 とS君。

この一言で、泣きたい気持ちがいっぺんに吹っ飛んでいってしまった。

意外と単純な女子高生が、そこにはいた。


                                        

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